人工妊娠中絶。やむを得ない理由に限り、妊娠満22週未満であれば、手術によって胎児を体外に出すことが法律で認められています。やむを得ない理由とは、身体的、経済的な理由で赤ちゃんを育てることが出来ない、望まない妊娠の場合などさまざまです。
妊娠しているか知りたい方は初期症状チェックリストへ
特に近年では、コロナ渦中で学校に行けず、自宅待機の中妊娠してしまった若者の中絶が急増しているそうです。どれだけ小さかろうが一つの命。それを失うことは本当に悲しいことです。私の身近にも悩んだ末にやむなく中絶した子がいます。今悩んでいる全ての人に、少しでもその命を、自分自身の身体を大切にしてほしいという想いからこの記事を書きます。
打ち明けられた事実
連絡をもらったのは社会人になって少し仕事に慣れてきた頃。話があると呼び出され久しぶりの再会を喜ぶ間もなく、彼女の様子がおかしいことに気が付いた。初めは彼との痴話げんかだろうと思ったが、それにしてはなかなか口を開かない。ようやく話し出したその内容に、私は愕然とした。どうやら彼との間に赤ちゃんを授かったが、堕ろそうとしているらしい。職業柄、命の大切さは人一倍感じていると思っている。そんな私は彼女の判断に対して猛反対した。到底賛成できないと声を荒げた。そもそも社会人としてきちんと自立している彼女が中絶する理由が見当らない。赤ちゃんだって、大好きな彼との間にできた子だ。そんな子をなぜ中絶するのか。
揺らぐ決意
打ち明けられた事実に、反対の言葉しか出てこなかった。しかし話を聞いていくと、彼女の胸の中にある葛藤がみえてきた。彼女自身には赤ちゃんを育てたいという想いがきちんとあり、彼もそれを望んでいる。しかしその時彼女は自分の人生をかけて挑んでいるチャレンジの真っ最中だった。妊娠することによってそれは断念しなくてはいけない。これは彼女の今までの努力を無にすることをあらわしていた。彼女にとってはそれが受け入れられなかったのだ。
命よりも優先することなんてあるのか?そう思った私は彼女にひどい言葉を言ったと思う。普段なら決して人前で弱いところをみせない彼女が初めて私の前で泣いた。外にいたので周りの人は何事かとこちらを見ている。場所を変えようとする私に彼女は自分の気持ちをぶつけてきた。
今まで死ぬ気でそれに挑んでいたこと、長い人生の中で今しかチャンスがないこと、もう一度チャレンジすることが不可能なこと。泣きながら必死に話す彼女に私の気持ちも揺らいだが、それでも、どうしても、中絶を肯定することができなかった。なんとか育ててほしいと懇願した、当事者ではない私が無責任なお願いをしていたと思う。
タイムリミット
数時間の話し合いの末、私は彼女を説得することができなかった。生んで育ててほしいというのは私の願望でしかない。結局は彼女たちが育てるのだから、そもそも他人が口を出すことでもないのかもしれない。悩んでいる間にも彼女の身体の中で小さな命が育っている、じっくり考えている時間など私たちにはなかった。私は諦め、いまだに泣き止まない彼女の背中をさすり、手術の日一緒に病院に付き添うことを約束した。やりきれない思いのまま、その日はやってきた。
どうしようもできなかった
手術当日。彼女の顔をみると不安と恐怖が入り混じっていた。たぶん寝ていないんだろうと思った。仕事を休んで付き添ってくれた彼とともに病院で手続きを済ませ、手術室へ。手術の間、待合室では私と彼の二人で話をした。たぶん今日の日のことを一生忘れない、彼の気持ちを聞きながら、この判断が二人の未来をどう左右するのだろうと不安に思った。これから明るい未来があると信じていたのに、急に胸にしこりができたようだと話す彼をみて、傷つくのは女性だけではないのだと知った。もちろん身体的ダメージは女性が全て負っている。しかし、男性側も女性同様のダメージを心に負うのだ。この時の私は、もっと他に方法がなかったのかといまだに自分の願望を引きずっていた。
手術が終わり、おぼつかない足取りの彼女にお疲れさまと声をかけた。疲れきった表情でうなずいた彼女はその時の記憶がないらしい。彼にもたれながら車に乗り込む彼女を見送り、無力感を感じながら帰宅した。今でも交流があるが、あの日のことは一度も話していない。
これから
最後まで読んで頂きありがとうございます。この記事を読んでくれた誰かの決意を変えようとは思っていません。ただ中絶という行為は私が思っている以上につらいものでした。当事者ではない私がです。きっと彼女たちは今回のことで想像もできないほどの重荷を抱えたことでしょう。それを背負って生きていくのがどんなに大変か今の私には想像もできません。これからの未来、どうしようか悩んでいる方。どうか後悔のない決断をしてください。一つの命と真剣に向き合ってあげてください。彼女たちを通して、こんなにもつらい決断が世の中にあるのだと知りました。幸せな未来が、全ての小さな命におとずれることを願ってやみません。
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